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やっとコトハに遊んで貰えると期待と感動にジンと胸を震わせる高宮の手を、飛び付いたコトハがカプリと噛んだ。
「・・・・・・へ?」
愉しげにコトハを見ていた高宮の目が驚愕に瞠られる。手に噛み付くコトハを呆然としたまま凝視した。
コトハは固まって動かない高宮の手をガシガシと容赦なく噛んだ。プツッと皮膚が裂け血が滲む。それでも仔猫の噛む力だ。大した痛みは感じない。
ただ、チクチクと牙が手に刺さる度、高宮の心にも同じように突き刺さった。
「コトハ、止めなさい」
さすがに静観出来ないと思ったのか、浅葱の制する声が響く。
その声を聞きながら高宮はポトリと猫じゃらしを落とした。
するとコトハは、高宮から興味が失せたように口を離し、落とされた猫じゃらしを咥え、浅葱の元へと向かう。そうして浅葱の足元に猫じゃらしを置くとその場に座り、右の前脚で揺らした。
コテンと首を傾げ見上げる瞳には『遊んで』と書いてあった。
「・・・な、なんで」
ショックの余り震える声を出した高宮を、完全に無視したままコトハは浅葱に向けて「みゃあ」と鳴いた。
「・・・コトハ、遊ぶなら俺と遊ぼう」
「その前に手当てだ」
浅葱が高宮の血塗れの手を見て言った。
「こんなもん舐めてりゃ治る。それよりもコトハ、遊ぶんなら俺と遊べ」
コトハに触れようと差し伸ばした手はコトハに叩き落とされる。
「十六夜!」
浅葱の声が室内に響いたが、心が折れる一歩手前でどうにか踏ん張るのに必死な高宮の耳には届かなかった。
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