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「お久しぶりです」
十六夜は目の前に立つ高宮に頭を下げる。
「あ、ああ。・・・浅葱は?」
「お部屋においでです」
十六夜の言葉に頷く。
「これから仕事の話だ。案内は要らねえから、誰も近付けさせないようにしろ」
それは暗に、隣に立つコトハに近付くなと言っているのだろう。十六夜は了承の意を込めて頭を下げた。
コトハが初めて変化したあの日から、10日が経っていた。毎日顔を見せていた筈の高宮は、その日を境にパッタリと姿を見せなくなっていた。
ここ何年かの間で、こんなにも姿を見なかった日はなかった。
あの日、十六夜は用事で留守にしていた。戻って来た十六夜を出迎えたのはコトハだ。
目を丸くし、驚く十六夜に悪戯が成功したとばかりに、コトハが笑った。
「・・・高宮様?」
高宮は一度もコトハを見ない。仕事の時はピリピリとする高宮だが、こんな頑なではなかった筈だ。
浅葱からコトハに虐められて拗ねていると、説明を受けてはいたが十六夜は戸惑いを隠せなかった。
「何だ?」
「・・・いえ」
怪訝な顔を向け「急いでるんだ」と、高宮は慌しく部屋へと向かった。
「・・・いちゃい?」
「ん?」
「たかみゃ?」
コトハは、ジッと高宮の後ろ姿を見つめている。眉間にシワを寄せるその表情は、かなり真剣な顔だ。
十六夜は首を傾げながらもコトハの質問に応えた。
「高宮様です」
「・・・たかみゃちゃま?」
その舌足らずな口調には思わずクスクスと笑ってしまう。
「そうです。犬神様ですからね。呼び捨てはダメですよ」
「あい」
「主様はこれからお仕事のお話だそうですから、コトハのお部屋で遊びましょうか」
「あい」
十六夜はコトハの手を握りコトハの部屋へと向かった。
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