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次の日の朝、十六夜はコトハを見つめたまま、どうしたものかと溜め息を吐き出した。昨日約束した通り散歩に行くことにしたのだが、問題があったのだ。
「尻尾の問題を忘れていましたね。・・・はてさて、どうしたものか」
普通の猫にはない二股の尻尾に目を向け、十六夜はうーんと唸った。
『まだ?まだ?』
十六夜の頭の中に催促の声が響く。
猫姿のコトハの言葉が理解出来るのは、十六夜の修行の成果ではない。
コトハが妖になったからこそ、分かるようになった。言うならば、妖の力に寄るものだった。
だからと言って、コトハが眠っていた5年の月日を無駄に過ごしていた訳ではない。元来真面目な気質の十六夜は、その身の力を高める為に、日々の努力は怠らなかった。
その甲斐あって、力は得たものの、得て不得手で分類するなら不得手の部分に入るその力はどうしても、手に入れることは出来なかった。
「コトハ、尻尾を1本には出来ませんか?」
『んーーないない?』
猫のお尻から尻尾が消えた。
(・・・シュールだよな)
「違うよ。コトハの尻尾は2本あるから、それを1本にして欲しいんだ」
『・・・むいよ』
2本同時なら出来るが、どちらかだけと言うのは、無理らしい。それを受けて、うーんとまた唸る。
「いっその事、人の姿になって服で隠しましょうか。耳は最悪、飾りという事にして」
『あい』
コトハは元気な声で返事をすると、人型に変化する。十六夜は、薄手のコートを着せ、尻尾を隠す。
「余り、尻尾を動かさないで下さいね。不自然に盛り上がりますから」
「・・・コトハ、ないないできうよ?」
「・・・あ、そうか。2本同時なら出来るんでしたよね?」
「あい」
「耳は出来ますか?」
「んーーがんばう」
難しい顔をして、視線をあちらこちらへと忙しなく動かした。
「・・・ないない?」
十六夜は、コトハの頭とお尻を見て頷いた。
「良く出来ました」
頭を撫でてやると、得意気に笑った。
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