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門を開け外に出た。そこがもう人の住まう世界になる。
人の世は不思議な世界だと思う。混沌として雑多な気に溢れている。この世は便利になり、物欲が満たされて行くほど、人の心が疲弊していくように見えた。幸せそうな人の笑顔の中にも、時折深い闇を見ることもある。
物が豊かになり、得られたものは何なのか。
数百年前は活気に満ち、もっと人の目も魂も輝いていた。十六夜には、彼らが自らの首を自らの手で締め上げ、苦しんでいるように見えてならなかった。
「あ・・・あちゃぎの匂い」
クンクンと鼻を鳴らし、ふらりとコトハが歩き出した。十六夜は慌ててコトハの手を握り、引き止める。
「ダメですよ。主様はお仕事中ですから、邪魔になってしまいます」
どの辺りに浅葱が居るのかは分からなかったが、十六夜は反対の方向へと歩き出す。
「コトハ、メメ?」
「コトハじゃなくて、行くのがメメです。戻って来られるまで、例え姿を見かけても近寄ってはいけませんよ」
「・・・メメ?」
「危ないですからね。・・・約束して下さい」
十六夜は、コトハの視線に合わせるように座り込む。コトハはぎゅっと唇を引き結び俯いた。
「・・・コトハ?」
「・・・・・・あちゃぎはコトハ、ヤダ?」
「違いますよ。コトハに何か良くないことが起きるのが、僕も主様もイヤなんですよ。コトハが心配なだけです」
「・・・あい」
「その代わり、戻って来られたら一杯甘えればいいんです。我慢した分もね」
「・・・あい」
まだ、納得はしていない顔をしながらも、コトハはおずおずと小指を出した。
十六夜はニコリと笑い、その指に小指を絡める。
「やくちょく」
「はい。約束です」
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