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十六夜は、少し歩いた先にある小さな公園へと、コトハを連れて来た。遊具の類いはブランコと滑り台しかないが、小さな公園の真ん中に聳え立つ、桜の木を見せてやりたかった。 樹齢何百年にもなる桜の花は、今が盛りと満開の花を咲かせていた。風が吹くたびに甘い香りを漂わせ、はらはらと舞い散る花びらが儚くも美しい。その周りには、見事なまでに咲き誇る桜を一目見ようと多くの者が集まっていた。 「きえーだねぇ」 ピンクに淡く色付く桜を見つめコトハが呟く。 「綺麗ですね」 ふたり、魅入られたように眺めていた。コトハが目をキラキラとさせて桜の木を見つめる様子に、連れて来て良かったと、十六夜は思った。 ーーふいに、目の前の景色がブレる。くらりと眩暈を覚え額に手をやる。 「・・・いちゃい?」 不安気なコトハの声に「大丈夫です」と応え軽く頭を振り辺りを見渡した。 そうして、おかしなことに気付いた。 先程まで居た、人間の姿が消えていた。周りの景色はモノクロになり、桜の花と木だけが色付いて見えた。 それは、不思議な光景だった。 『浅葱様の気配がします』 唐突に鈴を転がしたような軽やかな声が頭に響いた。と、同時に桜の木の真ん前に、1人の嫋やかな女性が現れる。 (神だ) 桜の花の可憐で清楚なイメージを併せ持つその女性は、儚く美しい。その桜の神は十六夜を見た後、コトハへと視線を移す。 「・・・にゃっ」 コトハが少しだけ怯えた声を出す。十六夜が目を向けると、コトハの耳と尻尾が飛び出している。震える手で、ぎゅっと十六夜の手を握り締める。 耳がペタンと折れて、尻尾も足に挟み込まれていた。十六夜は、安心させる為に強く握り返してやった。
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