2

28/30

40人が本棚に入れています
本棚に追加
/87ページ
『その不思議な獣から、浅葱様の気配を感じます。何者ですか?』 キツイ口調で問い質す、神の視線から逃げるようにコトハが十六夜の後ろに隠れた。 「・・・主様をご存知なのですか?」 『そなたは十六夜ですね?私が質問をしているのです。答えなさい』 (確かに神だな) その横柄な口振りに、確かに神だと確信する。 「失礼いたしました。コトハと申します。・・・コトハ、ご挨拶を」 コトハは、不安そうに十六夜を見上げた。十六夜が頷くと、おずおずと桜の神を見る。 「・・・コトハだよ」 その物言いに、十六夜は思わず吹き出しそうになる。神は不機嫌な様子を隠そうともせずに、コトハを睨み付けた。 『では、その者が浅葱様の許嫁ですか』 その言葉に、高宮から教わった噂話を思い出す。 浅葱は否定していたが、十六夜は敢えて否定はしなかった。ただ黙ったまま神を見た。 『私を袖にしたクセに、そんな獣と契りを交わすとは・・・』 ショックを受けたように桜の神が絶句する。 (・・・主様も、罪作りだよな) コトハを睨む目が更にキツくなるのを見、十六夜は密かに溜め息を吐いた。 「私達は、ただ貴女様の美しい桜の花を愛でに来ただけで御座います。御気分を害されたのなら、早々にお暇致します故、申し訳ございませんが、人の世に返しては頂けませんか?」 「・・・私は美しいか?」 「はい。それはもう、大層お綺麗で御座います」 十六夜は、嘘は付いていないが歯が浮きそうな気分に陥る。 (こう言うのが、媚び諂うって言うのですかね。・・・高宮様は嫌がってらしたな) 何となく十六夜は、高宮の顔を思い出していた。 (同じ神でも、やっぱり違いますね) 今ここに居ない犬神を、ひどく好ましく感じた。
/87ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加