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『その不思議な獣から、浅葱様の気配を感じます。何者ですか?』
キツイ口調で問い質す、神の視線から逃げるようにコトハが十六夜の後ろに隠れた。
「・・・主様をご存知なのですか?」
『そなたは十六夜ですね?私が質問をしているのです。答えなさい』
(確かに神だな)
その横柄な口振りに、確かに神だと確信する。
「失礼いたしました。コトハと申します。・・・コトハ、ご挨拶を」
コトハは、不安そうに十六夜を見上げた。十六夜が頷くと、おずおずと桜の神を見る。
「・・・コトハだよ」
その物言いに、十六夜は思わず吹き出しそうになる。神は不機嫌な様子を隠そうともせずに、コトハを睨み付けた。
『では、その者が浅葱様の許嫁ですか』
その言葉に、高宮から教わった噂話を思い出す。
浅葱は否定していたが、十六夜は敢えて否定はしなかった。ただ黙ったまま神を見た。
『私を袖にしたクセに、そんな獣と契りを交わすとは・・・』
ショックを受けたように桜の神が絶句する。
(・・・主様も、罪作りだよな)
コトハを睨む目が更にキツくなるのを見、十六夜は密かに溜め息を吐いた。
「私達は、ただ貴女様の美しい桜の花を愛でに来ただけで御座います。御気分を害されたのなら、早々にお暇致します故、申し訳ございませんが、人の世に返しては頂けませんか?」
「・・・私は美しいか?」
「はい。それはもう、大層お綺麗で御座います」
十六夜は、嘘は付いていないが歯が浮きそうな気分に陥る。
(こう言うのが、媚び諂うって言うのですかね。・・・高宮様は嫌がってらしたな)
何となく十六夜は、高宮の顔を思い出していた。
(同じ神でも、やっぱり違いますね)
今ここに居ない犬神を、ひどく好ましく感じた。
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