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『十六夜』
その声は頭の中に響いた。切羽詰まった声音だった。
(主様?)
『十六夜、高宮が怪我をした。今直ぐ館に運び込みます』
その言葉に、息を飲む。
『・・・十六夜、聞いていますか?』
(あ、はい。・・・怪我の状態は?)
『余り、芳しくない。死ぬことはないでしょうが、傷は深い。・・・準備をして下さい』
(受け賜わりました)
十六夜は立ち上がり、共に寝ていたコトハを見る。コトハも起きたのか、ジッと十六夜を見ていた。
『コトハは?』
(ここに)
『なら、そこから動かないように言って下さい。自室に運び込みます』
(はい)
「コトハ、高宮様が怪我をされたようです。主様が連れて帰られた後、手当をしなければなりません。その間、コトハはここに居て下さい」
「・・・あい」
「私は準備がありますので行きます。1人で大丈夫ですね?」
「あい」
コトハが頷くのを確認し、十六夜は部屋を出た。
大量の湯を沸かし、タライに上げる。お神酒とタオル、体に巻く包帯を浅葱の自室に運び込む。
布団を敷き、全ての準備を整え終えた頃、浅葱が戻って来た。
高宮の姿を見て絶句する。着ている服はあちこち切り裂かれ原型を留めていない。体中が赤く染まっていた。1番酷いのは腹に出来た傷で、ぼたぼたと歩く場所に、赤黒い血溜まりを作っていた。
高宮は、十六夜を見ると青白い顔に笑みを作る。
「・・・しくじっちまった」
喋るのも辛そうな高宮に、眉を顰めた。
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