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転々と足元を濡らしたドス黒い血溜まり。 傷だらけの身体。 青白く、苦痛に歪む顔。 目の前が真っ白く霞み、ぞろりと胸の奥で何かが蠢く。高宮の姿が浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返しながら、違う誰かにすり替わる。 (・・・あの人を僕は知っている) 思うだけで胸が疼く。瘴気に似た影が心を覆っていく。思い出してはいけないと、頭の中で警鐘がが鳴り響いていた。 闇の中に埋もれる記憶。そのずっと奥深くに眠る狂気が、目覚めろと十六夜を追い詰めていた。 「ああああっ」 ズキズキと針で突くような痛みが、十六夜をほんの少しだけ正気に戻す。 浅葱の叱りつける声が聞こえたような気がした。 十六夜は虚ろな目を遠くに向け、助けを求めるようにその腕を伸ばした。 (・・・誰か・・・) 沈めたはずの記憶の蓋がゆっくりと浮き上がるのを感じた。 「・・・たすけ、て」 掠れた声に答えるように何かが突進してきた。ドンッと激しい衝撃を身体に受けた。 「・・・あっ・・・」 十六夜は呆然としたまま、胸に飛び込んできたものを見下ろす。ぎゅっと胸元にしがみつき、頭をグリグリと擦り付けるのは・・・。 「いちゃい、いちゃい、だいじょーよ」 「・・・コ、トハ?」 心許ない呟きに、コトハは抱き締める力を強くした。 「いちゃいは、ここにいりゅのよ。どっかにいくのはメメなのよ」 十六夜は大きく息を吐き出し、呼吸を整える。そっと震える手を伸ばし、愛し子を抱き締めた。 「・・・どこにも行きませんよ。私の居場所はここです」 暖かな温もりが冷え切った身体にジワリと染み込む。瘴気が霧散するのを感じ、ホッと息を吐く。 「・・・ホント?」 「ええ。ホントです。・・・不安にさせてしまいましたね。もう大丈夫です」 コトハは十六夜から離れると、ジッと瞳を見つめる。琥珀色の瞳がキラリと煌めいた。 「コトハにお礼を。・・・ありがとう、コトハ」 十六夜が笑みを浮かべると、コトハは恥ずかしそうに身を捩った。
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