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「・・・何で、好きなんだろ?だったらいいじゃねぇか」 「あちゃぎのがちゅき」 コトハはそう言うと、体を乗り出し浅葱の頬をペロと舐めた。浅葱もお返しとばかりに、舐め返してやる。 そんな様子を眺め、高宮が「俺も舐めてやるぞ?毛繕いもきっと浅葱より上手いぞ?」とアピールを始めた。 「何を対抗しているんですか」 呆れた声を出す十六夜を、高宮はうるうるした目で見てくる。その目をドキリと見返し「チッ」と舌打ちした。 それを見た高宮が、更に落ち込んだように項垂れる。 「どうせ、俺なんて・・・嫌われ者だよな。狼なのに、犬とか言われるし、神なのに嫁には舌打ちされるし」 ぶつぶつと呟く高宮を鬱陶しく眺めていた十六夜は、高宮が呟いた最後のセリフに「誰が嫁だ!」と、怒鳴り返した。 「十六夜」 シレッと返す高宮に反論しようと口を開くも、言葉は浅葱に遮られた。 「いつ、祝言を挙げたんだ?」 惚けた事をのたまわる自分の主を睨み付ける。 「祝言な「あちゃぎ、ちゅうげんてなに?」 言葉は更に遮られた。 「コトハ、中元てのは人間の世界で、暑い季節に贈り物をし合うことだぞ?」 「微妙に真実を交えて、嘘を教えないで貰えないか?」 眉を顰め、苦言を呈す浅葱に「違うのか?」と高宮がキョトンと問い返す。 「夏に贈り物をすれば、それが全て『お中元』になる訳ではないだろう?」 「あ、ああ、そうか」 (何の話ですか) 最早、十六夜以外の者は『祝言』に付いて忘れたように『中元』とは何たるかの会話を始める。 コトハに至っては「ちゅーげん、ちゅーげん」とご機嫌に歌い出す始末だ。 十六夜は、そんな様子を呆然と眺めながら、遣り切れない思いを抱え、項垂れるしかなかった。
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