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「そう言えば、昔桜華を口説いてたよな」
更に追い討ちを掛けるかのような浅葱の言葉に高宮は焦る。
「・・・へぇ」
「なっ、浅葱、おまっ・・・いや、違うぞ?いや、違わないが、今は違う・・・痛っ」
弁解するべく起き上がろうとした高宮は、傷口を抑え呻いた。
「動くなと言っただろう?傷口が開いても、もう知らないからな?」
浅葱が眉を顰め、無理矢理寝かし付けると、傷口を確認する。
「お前が余計な事を言うからだろうが」
「嘘は言ってないよな?」
その言葉に高宮が「まっ、まぁ、そうだが」と、モゴモゴ言い返した。
「で、でもな、今は違う。今は十六夜一筋だ。どんなに別嬪さんでも、心は動かされないからな」
十六夜は、言い訳がましい高宮を軽く一瞥し、視線を浅葱に戻す。
「それで、もしかしたらその桜華様から苦情が寄せられるやもしれません」
「聞けよ!」
高宮の悲痛を込めた声が響き渡る。
「煩いよ?コトハが起きたらどうする」
キツい口調の浅葱の声に、高宮がプイとソッポを向いた。
浅葱は、コトハの頭を撫で「承知置きした。明日にでもご挨拶に伺おう」そう告げた。
「申し訳ございません」
「何故、十六夜が謝る?」
「・・・僕が連れて行かなければ」
「何を言うかと思えば」
浅葱が笑う。
「何も気にすることはないよ。十六夜はただ、コトハに桜を見せて上げたかっただけなのだから。2人とも怪我がなくて良かったよ。・・・桜華は、かなり我儘な神だからね」
浅葱はそう言って、ホッと息を吐いた。
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