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翌日、浅葱は玄関先でコトハと十六夜に声をかけた。
「それでは行って来ますね」
浅葱はニコリと笑うと、コトハの頭を撫でる。
「行ってらっしゃいませ」
「あちゃぎ?・・・コトハも、いくのよ?」
「コトハは、行きません」
朝からの遣り取りをまた繰り返す。コトハは朝、目が覚めてからずっと「行くの」と言い張っていたのだ。
「コトハはお留守番ですよ?」
「あちゃぎ、いやいやなのよ?」
「浅葱も、いやいやです」
十六夜が、果てのない会話を繰り返す浅葱とコトハを困った顔で見つめる。本音を言えば、自分も行きたいのだ。
だから、本来なら止めるべき立場なのだが、コトハの気持ちが痛い程分かり、止める事が出来なかった。
「あちゃぎ、メメよ?」
ぎゅっと浅葱の羽織を掴む。今日の浅葱は着流しに、紫の羽織を肩に掛けていた。艶やかな色香を醸し出す。
「コトハは、お留守番です」
そっと、手を羽織から外させ、改めて十六夜を見る。
「十六夜、高宮を頼みますね」
「・・・・・・はい」
その言葉に十六夜は、心底嫌そうな顔をしてみせた。
「コトハ、出ちゃダメだよ?」
「いや!」
「コトハ、私は大丈夫だから・・・ね?」
「いや」
プイとソッポを向くコトハを困った顔で見る。
「桜華は、浅葱の知り合いだから、コトハは心配いらないよ。ごめんなさいするだけなんだからね」
「コトハも、ごめんちゃい、ゆーの。あちゃぎだけは、メメなのよ?」
「・・・・」
コトハには浅葱の張った結界が効かない。このまま家に閉じ込める事が出来るのなら、無理にでも出掛けるのだがそうも行かず、浅葱は困り果てた顔を十六夜に向けた。
十六夜は、浅葱の視線をすいと外す。それを見て溜め息を吐き出した。
「あちゃぎ、おいてくのメメよ?コトハ、えんえんよ?」
更に追い詰めて行くコトハに「仕方ありませんね」と呟いた。
「但し、ごめんなさいの後は、しっーですよ?」
「あい」
コトハはニコニコと笑い、浅葱の手を握る。
「みみとしっぽ、ナイナイね?」
それに対しては「必要ありませんよ」と返した。
「耳と尻尾が見えないように、コトハの周りに結界を作ります。だから、ナイナイは大丈夫ですよ」
コトハは元気良く「あい」と答えた。
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