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「浅葱様、ようこそいらっしゃいました。我が主がお待ちです」 美しい寝殿造りの屋敷を背にし、慇懃無礼に会釈をした3人の侍女を見、浅葱も会釈を返す。 「こちらへ」 浅葱はコトハを抱いたまま、屋敷へと入る。コトハが浅葱の腕の中で、キョロキョロと辺りを見渡している。目は好奇心に満ち溢れていた。 「きれーだねぇ」 煌びやかで豪華絢爛。欄干や柱。天井や襖。1つ1つの物に装飾が施された様は、コトハの目を奪い感嘆の声を上げさせるには充分だった。 「コトハはこういったお家の方がいいかい?」 浅葱は我が家を思い出し、コトハに尋ねる。女っ気のない家は殺風景で味気ない。浅葱は特に気にもしなかったが、コトハの様子を見て造り替えようかと思ったのだ。 「ううん。コトハ今のおうちがいーよ?」 「遠慮は要らないんだよ?」 「あちゃぎといちゃいがいれば、いいんだよ?」 嬉しい返事を返すコトハに、ここがどこだかも忘れて頬ずりをした。 「こちらにて、主がお待ちです」 通された部屋は20畳程の広さのある部屋だった。コトハと共に部屋へと入ると、障子の向こうに広がる『枯山水』の庭が目に入った。 石や白砂を使い計算され尽くした庭は、浅葱からすれば「手入れが面倒な庭」にしか映らない。 コトハも庭よりも、襖の方が気に掛かるようだった。 浅葱も襖を見遣り、思わず「ほう」と感嘆の声を漏らす。 三方にある襖の、庭と反対側の場所には満開の桜の木が、周りを取り囲む襖には、幾つもの花弁が舞い散る様が、幻想的に描かれている。 「素晴らしいですね」 余りこう言った、風情というものに興味を惹かれない浅葱も、素直に綺麗だと思った。
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