第二章  女優と桜子

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 重役とプロデューサーは、室町桜子が邸から出して貰え無いらしいと聞いて、本当に困っていた。  まさか晴臣が、彼の妻をマスコミからそこまでガードしているとは思っても居なかったから、まず晴臣に話しを通さなければならないとは、全くの想定外だった。  勿論の事だが、夏彦との一件を彼等は知らなかった。  抑々あの鷲津晴臣に会いたい、と申し入れるだけでも大変なのだ。  そして晴臣の部下と秘書は、その日が晴臣の機嫌に良い日である事を祈っていた。  妻の事となると、恐ろしく本気で事に当たる。機嫌の悪い日に、気が立っている晴臣なんて恐ろし過ぎると思った。  そして、今朝の機嫌は可成り拙い。  前日に晴臣が帰った時、彼に反抗して桜子が外出していたのだ。十日間も閉じ込められて頭に来ていた桜子が、麻紀を誘って美術館へ出掛けて帰りが少し遅くなった。  運悪く、早く帰った晴臣に見つかってしまうと言う事件が起っていたのだ。  「桜子、邸から出て良いとは、まだ言って いない。どうして勝手に出掛けたのかな」  声がきつい。  「でも十日間もなんて酷い」  「あんな目に遭った後だ。守る為の 僕の言い付けが何故聞けないんだ」  かなり苛立っていて怖い感じと思うと、やはり此処は詫びて置くべきだと思ったから、涙声で謝った。  でも許してくれない。あの手この手と試したけど、まるで聞き入れてくれない。  これは誘惑するしか無い。怖いけど遣って見た。  取り敢えず詫びの言葉から囁いて見る。  「許して。勝手をして御免なさい」  涙声で言って見る。  「私がいけなかった、好きなだけお仕置きして下さって良いわ。反省してます」  囁きながら、彼の胸に身を投げ出して見つめる。涙目も忘れずに使った。  震える手で、彼の唇にそっと触れてみる。逃げないからもう少し遣って見た。  唇を優しく重ねて誘ってみる。首に腕を回しながら抱きついて、胸を少し押し付けて見た。  
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