第二章  女優と桜子

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 腕の中の桜子が、震え乍ら、頭を振った。  「もう少しで終わりだから、全部話させて欲しい」、目を閉じて溜息をつくと、また話し始めた。  「証言ビデオと一緒に、彼女に手紙も書いたわ。強く生きて欲しい。私も頑張って生きるから、って書いたわ」  「そして彼女の実刑判決が下りた日、とうとう私は、両親から縁を切られちゃったわ」  また涙を流して震える桜子に、晴臣は堪らなくなって囁いた。  「本当に、もういい」桜子を自分の身体に抱き寄せて、胸に包んだ。  桜子が、胸の中で小さな声で囁いている。  「あと少しなの、聞いて」話し続けた。  「私は麻紀に助けられて、室町桜子として小説家になって貴方に出逢った」  「貴方に優しく包んで貰って、愛の行為が前の結婚で知っていたもの何かとは、違うと教えて貰ったわ」  桜子が、僕を涙に濡れた目で見詰めるから堪らなくなって、熱く抱き締めた。  桜子は守る様な晴臣の口づけが嬉して、抱きついて彼の胸に顔を埋めた。  あんなに何時も強い魔女が、弱々しく震えている。どれ程の辛さだったのかと思うと、聞いた事が悔やまれた。  そんな僕の想いを察した魔女が、驚きの行動に出た。  僕の膝から降りると、笑顔で宣言した。  「でも、もう終った事だわ。今はこんなに幸せなんですもの。全然大丈夫」  逞しい文月との融合体は、その後で面白い話しを聞かせてくれる。  「それにね、麻紀と夏彦が一緒に暮らして居るらしいの。私、応援してあげなきゃいけないわ」  元気を取り戻してくれたのは嬉しいが、この魔女が何を始める積もりか、不安だった。とにかく僕は、急いで釘を刺して置いた。  「僕の許しも無く、勝手に夏彦の館に行く事は認めない。麻紀さんに会いたければ、此処へ来て貰いなさい」  僕が余りにも真剣に言うものだから、魔女が含み笑いまでして、言ったものだ。  「貴女も夏彦も、どうして大きな胸が好きなのか聞いたわ。可愛い幼稚園児とも思えない様な“おませさん”だったのね」  この魔女の凄さは、身に沁みている。  何を聞いてきたのだろうか、と怯えが走った。  「私をあんまり閉じ込めると秘書に囁いて上げる。風林火山の幼い恋は、きっと受けるわ」  
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