第一章  晴臣の妻

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 文月は晴臣の腕の中で、妻として生きている。愛してはいても、馴染みのない生活に戸惑いは深い。  「全てを晴臣に、委ねて生きる」、呟いては、赤くなる。何となく面映ゆい。  晴臣が、結婚式をしようと言い張っているが、恥ずかし過ぎて同意出来ない。  婚姻届けを出してから、ずっと三日間も邸宅から出ないで過ごすから、何も出来なかった。離してくれない。  妻になってしまえばそれで納得して離れると思っていたのに、そうでないらしいから呆れる。やっと仕事に出たので、早速に出版社の麻紀の番号に電話を掛けた。  「文月、今何処にいるの。心配したよ」  麻紀が叱っている。  「麻紀、ごめんね。夏彦まで押し付けたのに連絡もしないで本当に悪かった。許して」  元気そうな声に安心した麻紀だったが、次の言葉にひっくり返るくらい驚いた。  「報告が二つあるの。私、(お吟さま)の続編を書いたわ。何だかそうで無い物になっちゃったけど。早く読んで貰いたい」  少し言葉を切って続けた話の方が、凄い内容だった。  「私、晴臣の妻になったの。三日前に婚姻届けにサインしてしまった」  「大丈夫なの。無理じいされたんじゃ無いよね」心配で聞いてしまった麻紀に、軽く笑って答える。  「邸に来て私を見て欲しい。きっと納得してくれる。幸せなの」何だか優しい声だと思った。  「でも邸って、鷲津晴臣の邸宅の事を言っているの」思わず聞いてしまった。  晴臣にずっと邸に閉じ込められていたと、嬉しそうに言うから呆れてしまう。でも元気で幸せそうだから許すしか無い。  「晴臣はやっぱり危険な男だ」と思った。  それに、此処に来ていきなり出て来た続編の話しに何かしらの因縁を感じてしまう。  早く桜子に会いにいこう、と決心した。
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