第三章  再会

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 桜子の両親は退職を機に、それまで住んでいた家を売り払って、生まれ故郷の小田原に引っ越していた。  晴臣は彼女の両親に、高台文月と結婚した事を告げて、「一度、お会いしたい」、と申し入れた。  書斎で桜子から、証言ビデオの詳細を聞き出した後で、彼女の両親に会ってみようと決めて動いた。あの日から二週間後の事で、彼らしく、速くて素早い動きだった。  招かれて、彼等の新居を訪ねた晴臣は、居間の本棚に並んでいる室町桜子の本が、殆ど全冊揃っている事に直ぐに気が付いた。  「全部、お持ちなのですね」  両親は、互いの顔を見合わせて、恥ずかしそうに微笑んだ。  「私達の娘の作品ですから」、少し哀しそうに笑うと、桜子の近況を遠慮がちに聞いてくる。  ずっと、「娘に悪いことをした、と後悔していた」、と言って涙ぐむ父親。  ただ、何も言わずに啜り泣く母親の姿に、二人の想いが溢れていた。  両親は、自分達の老後が娘の迷惑にならない様に、今のバリアフリーの平屋建てを購入して、引っ越したのだと語った。  「あの子が辛い想いをしている時に、縁を切ったりして、酷く苦しめてしまいました。世間の目ばかり気にして、たった一人の娘を 捨てた私たちです」 だから、彼等は桜子の負担にならない様にしよう。二人だけで生きていこう、と決めたと話した。  その上で、「今の桜子を、幸せにして遣って欲しい」、と言って泣いた。  何回も訪ねているうちに、お互いに打ち解けて行った両親と晴臣。  桜子に内緒で、結婚式の相談をした。  最初は、娘に合わせる顔が無いと渋っていた両親も、晴臣が語って聞かせる両親の知らない強い魔女の様子に、会ってみたい気持ちが抑えきれなくなっていった。  「私達は、最初はあの子の本だとは知らずに、(お吟様)を買いました。本のカバーに印刷された娘の写真と、生まれた年や最終学歴の紹介で、室町桜子と言う作家が、私達の文月だと知ったんです」、父親が低い声で呟いた。  「合わせる顔も無い私達は、サイン会が開かれる度に、物陰から見る為だけに、出掛けて行きました」  母親が涙を流すと、父親が妻の手をそっと握った。  晴臣が、それなら是非にと説得した。
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