第一章  晴臣の妻

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 テレビ局に戻ったプロデューサーが、重役と揉めている。  「確かな話なのか。芸能レポーターのガセネタじゃないだろうな。鷲津晴臣といったら大物だぞ。そりゃあ室町桜子は人気作家だがまさか、それと結婚まではしないだろう」  重役は俄かには信じられない。  いや、信じたくない。  「指輪だって愛人へのプレゼントとしては普通だ。婚約者として邸で一緒に暮らしているなんて、あり得ないね」  どちらかというと鼻で笑った感じで言うから、それ以上何も言えなくなった。  そこへ麻紀から連絡が入った  「続編が既に書き上がっているらしいが、テレビ局に関係の無い所でできた物だから交渉はそっちで勝手に遣って貰いたい」、と言ってきた。  重役がそれ見た事か、スポンサーは大事にしろと言っている所へ、芸能レポーターから別口で連絡が入った。  「あの鷲津晴臣の結婚、もう入籍が済んでいるらしい。これから確認を取るが大スクープだよ」  急いでいるらしくて、それで連絡が切れてしまった。  プロデューサーはもう真っ青だった。  テレビ局と関係の無い所で書かれた続編を手に入れるだけでも大仕事だと思っていたのに、室町桜子には何の圧力を掛ける事も出来ない。  圧力を掛けたりしたら、夫の晴臣に何をされるか分からない。  怒らせる勇気など、欠片も持ち合わせていない。  「何だ。まだ何か言う事があるのか」  顔面蒼白になって自分に向き直ったプロデューサーに、重役が不機嫌に問い掛けた。  そんな重役を見詰めて、プロデューサーが呟やく様に言葉を返した。  「室町桜子が、既に入籍を済ませているそうです」  重役室に、重い沈黙が流れた。
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