第一章  晴臣の妻

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 麻紀は続編を読んで、本当に驚いていた。 只の人気作家から、本物になろうとしている桜子の新作。  続編の枠には収まり切らない、凄い出来だと思った。  この小説の中には、恋に生き、夢を追いながら、逞しく生きようとする女が描かれていて、娯楽ものから一歩踏み出して人生を語っていると思う。  「それで、晴臣さんとはどうなの」  読み終わって、どうしても聞いて見たくなった。  この小説の中の男は、何処から見ても晴臣の事だと分かる。  赤くなって恥ずかしそうにするから、意地悪く聞いてしまう。  「もしかして、彼の事が最初から好きだったの」、文月はもう真っ赤で、見ていて面白過ぎる。小さな声で答えてくれた。  「好きじゃなきゃ、寝たりしない」  「だよね。夏彦がどんな目に会されたか見れば、やっぱりと思うわ」、二人は目を合わせて、吹き出してしまった。  そこで、麻紀は思い出した。  「そうだ、夏彦を如何にかしないといけない」  晴臣の妻に手を出したりしたら、本当に命が危ない。  欠陥だらけの変態だが、あの才能が無くなるのは惜しい。  「夏彦め、何処までも面倒な奴」  呟きながら思い悩んでいるらしい麻紀を見て、もしかしたら夏彦が結構好きなのかも知れないと思った。  出版社に続編の話をしてもいいかと聞くから、コピーを渡して麻紀を送り出した。  桜子は書斎に戻ってきて、晴臣の面白がっているらしい姿を見つけて驚いた。  「お帰りなさい」、少し警戒してしまう。  いつから居たのだろう。どの位、麻紀との話を聞いていたのか気に掛かる。  「僕を最初から好きだったなんて、知らなかった。君は酷い女だ」  魔女の慌てぶりが楽しい。  早目に帰って来て、麻紀が訪ねて来ていると聞かされ、邪魔しないつもりだった。  でも少しだけ覗いて見る積りだったが、挨拶出来なくなった。   桜子の声が言っているのを、聞いた。  「好きじゃなきゃ、寝たりしない」、胸が熱くなる。  おもわず抱き締めたて、髪に顔を埋めて囁いた。  「僕もだよ。どうしても君が欲しかったからあんな条件を出して捕まえた」  そのまま抱き上げるから、彼女は思わず言ってしまった。  「床は痛いから、いや」  彼が笑って囁く。  「この前はそんな文句は言わなかった。愛が少なくなったのかな」  「意地悪」  赤くなった魔女をまた寝室に閉じ込めて、愛した。
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