第一章  晴臣の妻

8/8
93人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
 何とかしなくてはと思ったから、晴臣の腕の中から出て、起き上がった夏彦の顔を思いっきり平手で打った。顔に手形が赤く浮き出る程に、容赦なく打った。  振り返って、晴臣に微笑んで言ってみた。  「私、仕返ししてやった」  それからまた気を失ったらしく、気が付いたら車の中だった。晴臣に抱かれていて、心配そうに彼が覗き込んでいる。  目を開けた私に、厳しい声で言い付けた。  本当に怒っているらしく、口許が険しくて怖い。  「これからは出版社の方が邸に来る。君は暫く邸から出さない、いいね」  本当にそれから十日間、邸から一歩も出してくれなかった。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!