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 久はいつものように、眠気を抱えたまま登校した。  友人から借りたゲームで夜更かしをしてしまったのだ。  クラス内外での交流が広く、映画のDVDを借りたりすることも多い。そのため、夜更かしは日常茶飯事だった。明るく社交的、勤勉で成績もいいため、一緒に住む祖父母も文句は言わない。  久には両親がいない。正確にはいなくなった、だ。幼い頃に久の後ろをついて回っていた妹は攫われ、両親も妹もいない。  今は母方の祖父母の家に住む。祖父母は非常に優しい。成績上位をキープし、しかも学校をサボることもない久には寛大だった。久もまた、祖父母を大事に思っていた。  サラリーマンの父に保育士の母、三歳年が離れた妹。特別裕福というわけでもないが、特別貧しいわけでもなかった。友達も多く、毎日を楽しいと感じていた。  しかし七年前、まだ十歳だった久に悲劇が訪れた。  ガラスが割れた音が、久を眠りから叩き起こした。有無をいわさないと、口を塞がれた上、手足を縄で縛られた。妹も同じように拘束されたが、そのまま外へと連れだされて行った。  父はバッドで頭を強打。何度も何度も、体の隅々まで、骨が砕けても殴られ続けた。骨の砕ける音と父のうめき声が、久の耳にこびりつく。  母は包丁やナイフでめった刺し。何回も何回も、体が赤く染まるまで、痙攣し始めても刺され続けた。部屋に飛び散る血液と母の悲痛に歪む顔が、久の目に焼き付いた。  久が助かったのは、そのときちょうど祖父母がやってきたからだ。不審に思った祖父母が警察に通報。久だけは難を逃れた。  その日から、夜に一人で眠れなくなった。「いつかあいつらが自分を殺しに来る」と、不安でたまらなかった。  そんな久を助けたのは幼なじみの高坂菜摘だった。  祖父母の家に引き取られ、最初は祖父母が日替わりで添い寝をしてくれていた。だが祖父母も年をとり、久とは生活リズムが変わっていく。久もまた年齢が上がるのと同時に添い寝をせがまなくなっていった。  代わりに、保育園の頃からの幼なじみである菜摘が添い寝をすることになった。  久の事情を知っていた菜摘は「役に立てるなら」と毎日久の家で寝ることになった。朝方には自分の家に帰るため、一緒に登校したことは一度もない。そしてそれ以上に、男女の仲ななることはなかった。
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