6人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
そんな日々の中のある日。君のいないところで君の母親に言われた。
「もうやめてあげてくれないかしら」
何をもうやめてと言うのかと言えば、僕の「結婚しよう」をだ。
「それはできません」と僕は応えた。すると今度母親は訊いてきた。「どうして?」と。
「彼女と結婚したいからです」
「でもあの子は――」
「僕は信じていますよ。彼女との未来を」
そう言うと母親は黙り、それっきりもうやめてと言ってくることはなくなった。おかげで僕たちはその後も、かたくななやり取りを続けられた。
そして結局、僕たちのそのやり取りは、君の応え方に多少の揺らぎがあるくらいで、平行線のままあの日の前日まで続き、とうとうあの日を迎えた。
あの日も僕は「結婚しよう」と君に言った。すると君は「ごめんなさい」でも「いい加減にしてよ!」でもない初めての応え方をした。
「まったくとんでもない頑固者を好きになっちゃったもんだ」
苦笑と共にそう応えた君は、苦笑を微笑みに変え、「結婚しようって言い続けてくれてありがとう。本当はずっと嬉しかったんだよ」と言った。
でも、知ってたよ、そんなこと。君の母親のように、きっと周りの人間には、僕のかたくなな「結婚しよう」は君を追い詰めるように見えただろうけど、君にとってはそうじゃなかったことは。
でも。
君は嬉しかったと言ったのに、それ以上は――「うん」とは言ってくれなかった。
その言葉を最後に、君は消えた。
成功率のごく低い手術を受けるため、手術室の中へと。
最初のコメントを投稿しよう!