かたくなに

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 扉の上で赤いランプが灯り、『手術中』の文字が浮かび上がった手術室前。  僕はそこに立ち、『手術中』の文字を見上げ、遂に「うん」とは応えてくれなかった君のかたくなさを恨んだ。けれど一方、君の僕への愛を改めて感じていた。  君がかたくなに「うん」と応えなかったのは、存在するかわからない自分の未来に、僕を巻き込みたくないと思っていたからだとわかっていたから。  ――あの日から五年。  その五年の間に巡り来たあの日と同じ日付けの日に、僕は必ず思いだす。  僕のかたくなさを。  君のかたくなさを。  そして思いだすと決まって言うんだ。 「本当に君は頑固者だ」  するといつも、傍らにいた君は言い返してくる。ムッとした表情で僕を見てきて、「それはあなたのほうでしょう」と。  いつもならこの後、互いに譲れないという顔をして、僕たちは少しの間見つめ合う。そうしてそのうち、どちらともなく笑いだす。と、なるんだけど――。  笑いだすより先に、不意に君の視線が僕から外れた。そのまま君は視線を下げ、両腕に大事に抱いていたものを見る。君の唇が開かれた。 「あ、いけない。起きちゃった」  君の腕の中を覗き込めば、五か月前に生まれたばかりの僕たちの愛娘がゆっくりと目を開こうとしていた。  -終-
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