エピソード 0  ボルドーの手帳

8/35

2438人が本棚に入れています
本棚に追加
/652ページ
もう今日で辞めてしまいたいという思いを封印して、詩織は改めて彼の元に挨拶しに行った。 「今日からまたお世話になります。わからないことも多々ありますがよろしくお願いします」 ペコリと頭を下げた詩織には興味も示さず、ちらりとだけ見て「ああ」と一言だけ言って、鬼束はまた目線をパソコンに戻した。 ああってそれだけ? もう少し気のきいた言葉はないの?と心の中で攻める言葉は止まらない。 「あの、まず何をすれば良いですか?」 ひきつった笑顔で、無愛想な上司に恐る恐る訊ねた。 また彼は詩織に目をやり一つ大きな溜め息をつく。 「今は忙しい。仕事はあるけど説明が面倒だ。まずはうまいコーヒーでも入れてくれ」 そう言いながら眉間を揉んで、また視線は元に戻っていった。
/652ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2438人が本棚に入れています
本棚に追加