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「本当に、いつでも電話してきて良いからな。意固地になって我慢するなよ」
そう言うと、何事もなかったかのようにさっさとタクシーの中へと戻っていった。
窓を開けて手の甲をヒラヒラと見せながら手を振る鬼束を、詩織はしばらく呆然立ち竦みながら見送った。
暗闇の中で頬も耳も真っ赤にさせながら。
放心状態で、立っているのもやっとだった。
その夜も、次の夜も、そしてそのまた次の夜にも、詩織は怖い気持ちなど思い出すことはなかった。
その代わりに、鬼束の甘さを思い出しては枕だったりクッションだったりを頭に被せながら、足をバタバタしてのたうち回り一頻り暴れては「ばか」と呟く日が続いた。
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