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先程から二人のやり取りをにやにやしながら見ていた芹澤は鬼束とは親しいらしかった。
「あんな奴だけと良い奴だからごめんね」
なぜか彼が謝って詩織にコーヒーを入れる以外のきちんとした仕事を教えてくれた。
鬼束に比べたら何て良い人なんだろう、と詩織は芹澤に直属の上司になって欲しかった。
芹澤の教え方は優しく、多少のミスにも寛大だった。
一つ一つ丁寧に教えてくれてわかりやすかった。
それに比べて鬼束は仏の顔は一度までで、諺ですら三度も我慢してくれるのに、と詩織はこの気の短い上司が本当に嫌だった。
それでも、詩織の入れるコーヒーだけは、いつもうまいと素直に誉めてくれた。
芹澤にも勧める姿は少しだけ可愛気があって微笑ましかった。
鬼束の態度にも少しずつ馴れて来た頃、詩織は彼に呆れられるような失敗を一つ、やらかしてしまった。
事あるごとに、営業に関する事だけでなく、先輩達から教わったこと全てを大切な手帳に書き込んでいた。
同じ営業部の全員の顔と名前が一致してきた頃、また向かいの席の鬼束が仕事の事で詩織に指摘してきたことを書き留めようとしたが、肝心の手帳が見当たらない。
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