エピソード 0  ボルドーの手帳

2/35
2430人が本棚に入れています
本棚に追加
/652ページ
引っ越しを来月に控えて、詩織は仕事から帰ってきては、あるいは休みの度に部屋の中のものをひっくり返して、断捨離をする生活が続いていた。 短大生になってから、その後社会人になっても暮らし続けたその部屋に、別れを告げる日が近付いているというのに。 作業は一向に進まず、いつの間にか溜まっていた荷物がこんなにもあったのかと、まめに使わなくなった物を処分してこなかった自分を恨めしく思った。 一つの段ボール箱の断捨離がようやく終わり空いた箱を畳んで、また押し入れから段ボール箱を一つ出してきて、とその作業を繰り返すことに飽き飽きして来た頃しばらく開けていなかった箱を開けてすぐにその手帳が目に飛び込んできた。 今の自分の原点がこの代物だったといったら大袈裟だろうか。 社会人になって学んだ全てがここに事細かに書かれている。 さすがに三年目にもなると仕事も覚えて見返すことも無くなったが、勤めたばかりの一年間は常に持ち歩いていて時々見返してもいた。 今は新しい手帳になりそれを使う事も無くなったが、触れると懐かしさが込み上げる。
/652ページ

最初のコメントを投稿しよう!