エピソード 0  ボルドーの手帳

4/35
2434人が本棚に入れています
本棚に追加
/652ページ
研修が始まってから約二週間座学で会社の概要やら電話での対応の方法、美味しいお茶の入れ方まで決められた時間の中で急ぎ足で教えられた。 新卒のペーペーの小娘がたかだか手帳にその値段を出すのはどうかと少し躊躇もしたが自分への餞にと一目惚れして買ったその手帳に、詩織は学んだ全てを一言一句漏らさぬよう書き込んだ。 合同での研修が終わると数名ずつのグループに分かれて各部署での体験が始まった。 詩織自身はどの部署が良いという強い希望も特になかったが研修期間中に彼女が最初に配属されたのは、研修の間一通り全ての部署を経験して回ってからまたしばらく居続ける事となった営業部だった。 詩織も社会に出るまでの間にアルバイトは幾つか経験してきたが、会社に勤めるというのはこんなにも責任が重くのし掛かるのかと感じながら一番先に与えられた業務を必死にこなした。 ようやく出来終えて、向かいに座る詩織の研修担当者のである目付きの鋭い彼に、恐る恐る出来たての書類に目を通してもらおうと、首に掛かる社員証の名前を呼ぶ。 「あのスミマセン、オニヅカさん確認お願いできますか?」 そう言って出来た書類を差し出すと、気だるそうに顔を持ち上げながら更に目付きを険しくして言われた言葉に詩織は血の気が引いた。 「オニヅカじゃなくオニツカ。濁点つかないから」
/652ページ

最初のコメントを投稿しよう!