第1章

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ごとごとと牛車に揺られて晴明が大路を行く。一見人に見える共の者は、むろん式だ。 これが夕暮れか夜ならば、こんな手間をかけずに一気に屋敷に『飛ぶ』ものを、と晴明が蝙蝠(かわほり)の蔭で欠伸を噛み殺す。 ほどなく左京は四条にある味部の中将の屋敷についた。 「安倍殿におかれては、何のご用件か」 現れた当主が太り気味の身体を脇息に凭せかける。 「昨日こちらに源博雅殿が伺ったとの事」 「確かにそうじゃが、それが何か?」 「夕べ帰ってから熱を出して寝込みました。もしやこちらの皆様は大丈夫かと……」 中将の顔色が微かに変わったが、口調は平静を保ったまま。 「何も変わりはござらんな……して、博雅殿には、どのような?」 探る言葉に、晴明が表情を消した顔を向ける。 「いやたいした事はござらん。おおかた、こちらの馳走を卑しくも食べ過ぎたのでしょう」 お邪魔いたしましたと晴明が腰を上げる。 ほっとした中将の顔が、ひやりとした晴明の眼差しと出会って強張った。 「ただ気をつけたが良かろうと存じます―――博雅を寝込ませたものが、こちらに残っていては大変なことに」 流行り病などではないとは存じますがと、物柔らかな言葉に含まれた脅しに顔色が変わった。 「待ちゃれ、晴明殿―――」 はい、と晴明が向き直った。 さて、味部の中将が語るには。 姪から博雅との仲を取り持って欲しいと持ちかけられた。 とある法師にこれを食べさせれば博雅の心は自分に向くと言われたと、なにやら怪しげな乾き物を届けてきた。 「それを博雅に?」 「どうしてもと頼まれてな。相すまなんだ……博雅殿には、大丈夫であろうか?」 「ご心配いり申さん……その乾き物とやらはまだ残っておりますか?」 呼ばれて女官が持ってきた袱紗が目の前に置かれる。 「これは頂いても?」 中将が頷いた。 「その法師とやら、どこの者か分かりましょうか」 袱紗を懐にしまいながら、晴明が訊ねる。中将が思い出すように眉を寄せた。
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