第1章

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小袖の襟に両手をかけると、それをそっと左右に開いて胸を露にした。 掌を当てて瞼を閉じる―――が、やはり何も感じられない。 そこからさらに下へと手を滑らせて、鳩尾の辺りを探ってみる。烏帽子を外した晴明が、その額を博雅の腹部に直に押し付けた。 ―――何も、ない。 博雅の肌に頬を押し付けたまま、晴明が唇を噛む。 これほどまでに、呪の痕跡がないとは、いったい? 「道摩法師とやらから手繰る他ないか……」 博雅の身体の両脇に手をついて身体を起こす。 ふと見下ろせば。 閉じられたままの瞼。薄く開いた唇。緩やかな呼吸に上下する胸。 掻き開いた衣の合わせ目から色づいた突起が見えた。 ……埋まったままのそれを、歯と舌で掘り起こしてみたい誘惑に駆られる。 今度は違う意図を持った指が、肌蹴たままの博雅の胸に落ちた。包み込むように撫でた掌が首筋へ上がる。 うなじの後れ毛を指先で掻きあげた。 「……博雅」 耳朶に鼻先を寄せる。 ―――? ふと違和感を感じたのは、何故だったろう? 「博雅……?」 身を起こして目を眇めた晴明が、博雅を見下ろした。 「そろそろ中に入らぬか」 庭で興じる春波と狼に、晴明が声をかけた。 「喉が渇いたろう」 木の桶に水を汲んで階に置く。     
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