第1章

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登ったばかりの太陽の光が白い靄の向こうから射しはじめた。 鳴き交わす小鳥の声が朝の訪れを告げるが、夜の名残を引きずった空気はまだどこかひんやりと沈んでいる。 貴族の朝は早い。太鼓の音とともに大内裏と内裏の小門が開かれる寅の刻(午前三時頃)には起床して、主要な諸門が開かれる卯の刻(午前六時頃)には出仕するのが普通であった。 が、どうやら都の丑寅の一画にある屋敷の主だけは、まだ朝寝を決め込んでいる様子だ。 白靄に包まれた一見荒れ放題の庭。露草の葉に溜まった雫が、早朝の光を映す。ぽつり、と零れた雫が淡い緑の葉を揺らした。 常と変わらぬ一日の始まり―――のはずだった。 屋敷の空気が不意に動いた。 気だるく褥(しとね)に横たわっていた晴明が、はっと身体を起こす。 「晴明!」 叫びと共に乳白色を帯びた光が満ちたかと思うと、室内にいきなり紗羽(しゃは)が具現した。癖のある金髪、白い水干がふわりと揺れる。 「何か来―――」 言い終えるまもなく。 黒い影が疾風のように屋敷に走り込んできた。 蔀戸を破り、御簾を裂いて飛び込んできたそれに晴明は押し倒された。 「―――ッ」     
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