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登ったばかりの太陽の光が白い靄の向こうから射しはじめた。
鳴き交わす小鳥の声が朝の訪れを告げるが、夜の名残を引きずった空気はまだどこかひんやりと沈んでいる。
貴族の朝は早い。太鼓の音とともに大内裏と内裏の小門が開かれる寅の刻(午前三時頃)には起床して、主要な諸門が開かれる卯の刻(午前六時頃)には出仕するのが普通であった。
が、どうやら都の丑寅の一画にある屋敷の主だけは、まだ朝寝を決め込んでいる様子だ。
白靄に包まれた一見荒れ放題の庭。露草の葉に溜まった雫が、早朝の光を映す。ぽつり、と零れた雫が淡い緑の葉を揺らした。
常と変わらぬ一日の始まり―――のはずだった。
屋敷の空気が不意に動いた。
気だるく褥(しとね)に横たわっていた晴明が、はっと身体を起こす。
「晴明!」
叫びと共に乳白色を帯びた光が満ちたかと思うと、室内にいきなり紗羽(しゃは)が具現した。癖のある金髪、白い水干がふわりと揺れる。
「何か来―――」
言い終えるまもなく。
黒い影が疾風のように屋敷に走り込んできた。
蔀戸を破り、御簾を裂いて飛び込んできたそれに晴明は押し倒された。
「―――ッ」
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