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困り果てた様子の近習が、涼しい姿の彼を仰ぎ見る。
「この者たちの言うとおり、これは博雅だ」
「晴明殿」
「というか博雅の魂(たま)が獣の中に入っているのだな……屋敷に居ると言う博雅は、もしかしたら眠ったままではないのか」
眉を顰めて言われて、近習たちが顔を見合わせる。
「言われてみれば……」
「しかし、そんな―――馬鹿な」
恐る恐るといった態で、そっと獣に視線を流す。
ぱたぱたと長い尾を振った獣が、はっはっと赤い舌を出し鳶色の目で見つめ返してきた。
「確かめてみるか?」
晴明の声に近習が頷く。
「しかし、いかにして?」
そうだなと少し考えた晴明が、紙と硯を持ってくる。
「えーと……お前の得手は笛か和琴か?」
『笛』と『和琴』の二文字を紙に書いて、獣の前に置く。ぺた、と肉球のついた前足が『笛』の文字の上に置かれる。
「先週の歌会で、主上の前でお前が奏した曲の名は?」
『蘭陵王』『十天楽』『青海波』と書いた文字の上に、また前足が置かれた。乾いていない墨がついてしまった前足を、嫌そうにふるりと振る。
「おお、お上手お上手」
にっこり笑った春波が獣の耳を撫でた。
「どうだ?」
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