第1章

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晴明に問われて近習が顔を見合わせる。 「それは……しかし……芸達者な獣とは思いまするが」 「では博雅しか知らないこと……は無理であろうから、博雅とお前達しか知らないことを聞いてみるが良い」 納得のいかない様子の男たちに、晴明が提案した。 「えー昨日の朝餉の香の物は?」 『瓜』と書かれた字に、ぺたり、と前足。春波がぱちぱちと小さな手を叩く。 晴明の目つきが冷たくなった。質問をした男がぽりぽりと頭を掻く。 「ではそれがしが」 博雅の身の回りの世話をしている近習のひとりが、膝で前に進み出た。 「一昨日届きました文の差出人は?」 文、と晴明が顔を上げる。さらさらと3つ名前が書かれた紙の上にずいと身を乗り出した。 他の者も興味深々で見つめてくる。 「これは誠に、殿とそれがししか知らぬこと」 獣が逡巡する。困ったような光を浮かべる瞳を晴明が見返した。無言で顎をしゃくって答えを促す。 ぺた。 おおぉ~っと声が上がった。 「何と貴子殿とな」 「真でござるか」 「間違いござらん」 問われた近習が大意張りで頷く。 「その後、わたくしが墨をすりまして、殿がお返事を」 「ほう、どのような」 晴明が身を乗り出す。     
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