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「それがですな、胡桃色の高麗(こま)の紙を使いまして」
「高麗……もそっと雅なものを使えば良いものを」
晴明の呟きに、でしょう!と近習が膝を乗り出す。
「そこに、いやに古風な書体でもって上下にきちんと字を揃えまして」
「固い、固すぎるっ!……それは真に恋文なのか?」
嘆息するような晴明の声。私の苦労もお察しくださいとばかりに近習がしみじみと頷く。
「して肝心の中味は」
「おう!それが―――」
ばし!
長い尻尾が振られたと思うと、それが近習の顔面を打った。
振り向いた獣にきっと睨みつけられて、視線を逸らした晴明が座りなおす。
「……ということで、この獣が博雅だということは納得して頂けたか」
こほんと咳払いをする。
近習たちが肩を落として頷いた。
「しかし、どうしてこんな姿に……」
「殿、情けのうござる」
泣きそうになった近習に、主たちゃ趣味が悪いと春波が唇を尖らせた。
「可愛いではないか。小さなおつむりもきれいな目も」
鼻面を撫でた指をいきなり口に突っ込まれて、獣が目をぱちくりとさせる。
「ほらこの牙の鋭いこと……人の腕など一噛みで千切れそうじゃ」
うっとりと呟く顔を見つめる琥珀の瞳に、確かに困惑の色が浮かぶ。
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