第1章

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「……春波、少し黙っていろ」 近習たちがぞっとした表情になるのを見て、晴明が額に指を当てた。 不承不承、春波が狼の口から指を抜く。獣がぶるっと頭を振った。 晴明があらためて近習に向き直る。 「どうやら狼の身体に魂を入れられた様子、かなり強い呪とみえる……いつ呪をかけられたのか、心当たりは?」 顔を見合わせた近習が、ぽつぽつと話し始める。 「今朝起こしに行ってみると、褥の中の殿の横にこの獣がおり申して」 「追い払おうとしましたが、いっかな殿から離れようとせず」 「離れては近づき、または離れてと、誘うような動きについ後を追いかける形になり」 「こちらの屋敷に飛び込んで来たのです」 「昨晩、何か変わったことは?」 「変わったことと申されましても……」 晴明の問いに近習が首をかしげる。 ぴくりと顔を上げた獣が立ち上がる。座っていた近習がぎくりと身を引いた。 狼は部屋の中を足音も立てずに歩き回って、文机に鼻面を押しつけた。 「何だ?」 立ち上がった晴明が机を覗き込むと、獣の鼻先には箱に入った横笛。 「……笛?」 そうだと言うように、獣が鳶色の瞳を瞬いた。 「昨日、博雅は歌の会でも行きましたか?あるいは楽に関係した何かは?」     
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