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そう言えば、と近習の一人が思い出す。
「昨日は味部様が珍しい楽譜を手に入れたとかで、殿はそれを拝見しに伺っております」
「それか?」
晴明が傍らの獣を振り返る。獣が頷いた。
「賢いのう」
春波が獣の頭を引き寄せる。
「いや、これ博雅だから」
紗羽の言葉など耳に入らない態で、自分の胸に獣を抱きしめた。
柔らかい胸に押しつけられて、困惑したように獣が頭を振った。
「そこで何か変わったことでもありましたか?」
晴明がなおも重ねて問う。
「夕餉を馳走になって……なにやら珍しい肉を食したとか」
「おうおう、そう仰っていた」
「唐渡りの珍味ということでしたが、生臭うて一口で止めたとか」
「帰ってきて胸のあたりが気持ち悪いと仰って、早々に床につかれ申した」
「分かった。私が味部殿のところに伺って見よう。とりあえず博雅がこのようになったことは、ご内密に」
晴明が立ち上がる。
「殿のお身体のほうは、あのままにしておいて宜しいのでしょうか」
不安げに近習の一人が問うてくる。
「魂がなくても身体は機能する。しばらくは問題なかろうが……こちらに運んでおいた方が安全と存ずる」
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