失意の敗北

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 その日の授業はあまり覚えていない。授業間の十五分休憩の間は短すぎるため、あまりチョコの受け渡しは行われない。女の子も朝すぐに渡してしまいたいか、放課後ゆっくり渡したいのか。そのどちらかだった。  そしてその放課後が訪れた。 「あ、じゃあな」  朝下駄箱であいさつした友人はさっそうと、何の躊躇もせず帰宅を宣言した。  その彼のカバンには、どうやら朝は感じなかったふくらみが見てとれた。  僕も靴を履き、校門に向かう。  引き留めるなら今だ。僕にチョコを渡すなら今しかない。僕が校門を出てしまう前に呼び止めるしかないぞ?  そうしなければ僕は歩いて家に帰宅してしまうよ? だれか……だれか! ――  校門一歩手前だった。 「あのぉ」  僕は文字通り、反射するように振り返る。 「ハンカチ、お、落としましたよ?」  終った。  終ったのだ。明日から学校の男子には明確な格付けが施される。  無慈悲なまでの成果主義、圧倒的なまでのカースト制。  余裕のある誰かがこう告げるのだ 「お前ら昨日チョコいくつ貰えた?」  と。  それでもまだ昨年までは良かった。  僕には母がいた。  彼らの問いかけは昨日、つまり二月十四日以内にチョコをいくつ貰えたかをカウントするもので、その対象は限定されていない。むろん自身の母からのそれもカウントされるのだ。  だから去年までの僕は”一個”この最低防衛ラインが保証されていた。  ゼロ個の彼らのまるで死んだ魚の様な目を見てああはなりたくない、醜くとも、この位置だけは守りたいと思っていた。  でも昨年母は亡くなった。  僕はあの校門をでた瞬間。負けたのだ。
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