父の男

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 自分の家庭環境は複雑だと、渋谷蛍は思う。  ややこしくて、それでいて大雑把で、いったい、俺をなんだと思ってんだ、と溜息をついてしまうくらい、大人の事情というか、そいつらの知能の低さというか。    とにかく。  一人の人間がぐれるには、かっこうの居場所を与えてくださったわけで、喧嘩にあけくれたり、女を覚えたりする手助けをしてくださったわけで、未来に希望なんてあるのかと、捻くれた性格にしてくださったわけで。    そのすべてが言い訳であり、本当は俺なんかが生まれてこなければ、誰もが適当に幸せになっていたかもしれないなんて、そんな自尊心をも、ぶち壊しかねない思考回路まで提供してくださったわけで。  ひっくるめて言えば、一日一日が戦いだと観念している。   どんな戦いかって? 自分を自分で殺さないって感じの、不毛の極致をいく戦いだよ。
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