第一部・続

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最近では、一年ちょっと前から京都や大阪の方で、その黒い交際の伝を使い地元議員の献金疑惑を嗅ぎ付け。 記事に書かない代わりにと、議員の年が離れた妻を襲って金蔓にしていた。 それが古川刑事の死亡を聴いて、こっちにまた戻って来たので在る。 この遠矢から逃げる為に夜逃げした家族の数など、手と足の指を足したぐらいでは到底に足りない。 更に或る時には、脅した子供が泣き出したので黙らせ様と、怒り任せに思いっ切り蹴っ飛ばして頭を強打させ、一生残る傷害を負わせた事も在る。 だがこの性格の遠矢だ、そんな事など既に忘れているだろう。 そして、余罪はまだまだ他にも掃いて捨てるほどに在る。 振り込め詐欺グループと接触し、彼らからカモにしていた老人のリストを貰い。 既に財産など無い老人を取材しては、さも耄碌した老人が悪い様に書き立て。 その被害を訴えると言って来た弁護士の弱みを握り、自殺に追い込んだ事すら自慢話にした男だ。 ‘黒い’にしても、その心や行動に透明度は全く無い。 ドブよりも、掃き溜めよりも汚い奴がこの遠矢で在る。 だが、この男の世渡り上手な処は、得た金の使い方だ。 暴力団に然り、権力者に然り、潰さないで傘を借りる相手には、金と女を渡す。 付き合いの裏側で、非常にバランス良く、上手く動いて居るのも確かだ。 その為に、彼に弱みを握られた側や利用する側は、常に彼の味方をする。 彼の握る情報が明るみ出ること、情報源を失わない為のことで。 警察が彼を追い詰めても、どうしても捕らえられない原因に成っていた。 然し、折しもこの日は、彼のそんな生き方を破壊してしまう日となる。 その原因は、木葉刑事と関わった事だ。 詩織にさえ関わらなければ、彼もまだ悪人として威勢を張れていただろうが…。 さて、悪辣な事を考えながら道路沿いの歩道を行き。 時々に立ち止まると、誰かに連絡を取ろうかと考えたりする遠矢。 だが、刑事に関わってしまった手前、熱りを冷ますまでは大人しくしようと思い立ち、駅に向かう為、突き当たりのT字路を右に曲がると、突然。 「遠矢さん、ちょっとイイですか」 曲がり角の先へと先回りして、待ち伏せしていた様に現れた木葉刑事は、学園の広い敷地を囲う白い壁に凭れて立っていた。 (チッ、さっきの刑事か。 しつこく釘を刺しに来やがったな) こう察する遠矢は、思いっ切り身構える。
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