第一部・続

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走る車内にて、メールを見る木葉刑事が。 「今の店で、古川さんの奥さんが現れて俺に頭を下げてました。 多分、詩織ちゃんを案じて現れたのでしょう」 一方、眠気覚ましにガムを噛む里谷刑事だが。 「それでっ、詩織ちゃんの状況は? まさか、もう脅されてるっ?」 「いえ、そう成り掛けた処でしたが。 友達が異変を察して、教師を呼んだそうです。 これから園長さんが、彼と直接に話し合うと云う事ですが…」 すると、刑事らしく目を鋭くさせた里谷刑事。 「捕まらない程度に、飛ばすわよっ」 「はい」 刑事の二人が、高がライターの一人にこんなに慌てるとは…。 然し、それは無理も無い現実が在る。 フリーライターの〔遠矢 清彦〕《とおや きよひこ》は、フリーの記者の中でも最低最悪の人物と云う。 事件の被害者・加害者遺族に纏わりついて、時には暴力を誘って記事にすると云うのだ。 過去には、連続殺傷事件を起こした被疑者の家族を、云われ無い事実をねじ曲げた記事から自殺に追い込み。 それを“独占取材”と云う体の良い見出しを付けて記事にしたり。 別の事件の際には、被害者遺族の家族を悪質な取材や噂で追い詰め、ノイローゼ状態へ落ちた娘一人を風俗店に売り渡した・・、と噂される。 詩織は、あの通りに見た目が良く、然も両親を含めて異様な死に方をしていた。 また、法曹界の権威だった祖父も亡くしたことで、その身を寄せる庇護は越智水医師のみ。 遠矢のような者に絡まれては、その被害は越智水医師の家族にまで及ぶだろう。 急ぐ二人は、狛江市に在る〔聖凛学園〕に向かった。 3時頃には学園へ着く。 さて、今日からゴールデンウイークで学生は休みだが。 部活や勉強の強化補修の授業をやっている学園に、生徒が多数登校していた。 その生徒が活動する最中、第二応接室に於いて。 頭の左右側面に虎刈りを入れて、堅気とは思えない柄物のスーツ姿をし。 紫色の入ったサングラスを掛ける男が、態度も悪くソファーに座っていた。 その人相からして悪い人物と相対するのは、園長の中年女性。 女性の園長は、薄い紫のレディスーツに黒いベアトップ姿をして、黒髪を背に流していた。 外見的に見ても、中年の色香が漂う女性で。 園長と云う肩書きが無ければ、高級ホステスか、魅力的な社長夫人みたいにも見える。 然し、態度の悪い相手を見る園長の顔は、憤りに染まりつつ有り。
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