第一部・続

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「ふっ、フンっ! 仕方ネェっ」 負け惜しみの威勢だけ見せて、部屋を去り始めた。 「あっ」 遠矢を逃がしてしまうと、小さく声を出した園長だが。 遠矢を見送る木葉刑事は、細めた眼を彼に向けたまま何も言わない。 そして、遠矢と睨み合いながら、入れ替わりに部屋へ入って来る詩織。 「木葉さんっ、どうしてっ! どうしてっ、あの人を捕まえてくれないんですかっ?」 被害者として先行きを心配する詩織だ。 越智水医師の家族にも、心配や被害を及ぼさないためにも、この悪辣非道な男の逮捕を見たかったのだろう。 木葉刑事の目の前に来て、当たり前の事を問う。 また、里谷刑事でさえ、このまま遠矢を行かせていいものかと心配になり、行かせた木葉刑事を見返す。 だが、木葉刑事の鋭い視線は、去った遠矢の後を見たままに。 「詩織ちゃん、あの男は・・こんな微罪で許される人物じゃないよ」 こうハッキリ云う。 彼の意見を聞いた里谷刑事は、薄汚い噂が付き纏う遠矢だから。 「まぁ、調べて叩けば、舞う埃で先が見えなくなるぐらいとは思うけど…」 感じたままに呟いた。 然し、遠矢を野放しにした形の木葉刑事は、詩織を軽く見た後に、園長の方を向くと。 「園長さん」 声を掛けられた園長は、怪訝な顔をして。 「はい?」 「あの男の事は、全て此方に任せて下さい。 直接この一件で訴えると、あの卑劣な男の事だ。 後からどんな仕返しをするか解りません。 我々は、全く別の方面から、あの男の裏側を調べてみます」 確かに、蛇の執念深く、犬よりも鋭い嗅覚で人の弱みを探る様な、そんな雰囲気を持つ遠矢だ。 関わり合わずに居れるならば、それが一番いい。 だが、園長はそれでは済まない気がしてか。 「それは・・構いませんが。 それで、古川さんを含めて、学園は大丈夫でしょうか。 古川さんはまだお父さんの事で、他の記者さんに絡まれたり。 ヘンなスカウトも、偶に…」 こう言われると、今度は木葉刑事も詩織をしっかり見返し。
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