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「ちがう」
「ああ。もう一つ治る方法がある」
私は縋るように神倉さんを見上げる。
「運が良ければ何年後かに細胞が適用して痛みがなくなる。という研究成果はあるようだぞ。何年後か何十年後かかも分からないけどな」
治る? 治る? この痛みから解放される?
「一応これを渡しておくよ。私からの最後の選別だ」
神倉さんが穴から黒い物体を投げ込む。ごとんと鈍い音がして私の目の前に拳銃が落ちる。死ぬ? これで死ねって? でも死ねばこの痛みから……。
震える手で拳銃を握り銃口を頭に向ける。
「ああああああああああ!!」
叫んで、私は拳銃を床に落とす。治る。治るかもしれないんだ。治れば私は。
「悲しいものだね。治るかもしれないという希望があるから死ぬことすら選べない。人類が最後にかかる一番重い病気は希望か……」
椅子から立ち上がって神倉さんが私に背を向ける。
「ヴンシュ病。日本語にしたら希望病とはよく言ったものだ」
部屋から出ていく神倉さんを私は死にたくなるほどの激痛の中で見送った。
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