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「自殺……ですか?」 「そうだ。この病気になった人間の実に9割9分が自殺する」 なぜだ。老人になってから病気にかかったのならまだしも、若い年齢の時に病気になって死ぬ理由にはならないはずだ。現実、この病気は10代から20代の人間が多くかかっているはずだった。 「自殺する理由を私に聞かないでくれたまえよ。私は現実にこうして生きているのだから。死にたくなる人間の気持ちは私には分からないよ」 質問する前に答えられてしまった。実際、自殺する気持ちというのは私にも分からないし興味がなかった。人間死んだらおしまいなのだ。自分から死を選ぶ人間の気持ちは分からないし分かりたくもない。 「なら、別の事を質問させてください」 「なんでも聞いてくれたまえよ」 「先ほど感染とおっしゃいましたが、この病気はうつるんですか?」 私の質問にボディーガードの男の顔がピクリと動き、神倉さんが深く笑った。 「そうだね。その通りだよ。溝内くん。この病気は簡単に感染するのだよ。皮膚と皮膚を約1分ほど接触させ続けると感染する。ああ、空気感染はしないから安心したまえ」 言われて、ボディガード達の姿を見る。両手には手袋をしているし、帽子をかぶり長袖長ズボンをはいている。極力肌を外に出さないような恰好をしている。 「君はそのために来たのかね」 びくりと体を震わせる。見透かされている。いや、私の事を調べたなら知っていて当然か。 「その病気を感染させたい人がいるんです」 「可愛い妹さんかな」 私はうなずいて見せる。 「私の妹も病気を患っているんです。あなたとは反対の。まだ子供なのに、体がどんどん老化していく病気」 「早老症か」 その病名の通り年齢よりも早く体が老化してしまう病気のことだ。有名どころではプロジェリア症候群だ。こちらは子供や幼年期に発病することが多い。 妹の病名はウェルナー症候群。思春期に発病することが多い早老症で、原因は遺伝子の異常だと言われている。 「妹は、まだ発症して間もないんです。今の状態ならまだ間に合う」 「確かに、遺伝子や細胞を自己修復するこの病気なら、妹さんの病気の進行を止める事ができるだろうね」 「そうなんです。だから、お願いです」 両手を机について頭もこすりつけるようにぶつける。
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