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「素晴らしい! 実に重畳! 重畳! その心意気やよし!」 神倉さんが椅子から立ち上がって大仰に喜んで見せる。 「妹さんを大切に思うその気持ち。実に素晴らしい。この不肖な私が役に立つのなら喜んで協力しようじゃないか」 「本当ですか!」 「ああ。もちろんだとも」 「でも……」 私は言葉を濁す。 「何か不安な事でもあるのかね。何でも言ってくれたまえ。できることは何でもやろう」 「妹はここまで来れるほどの体力はきっとないんです」 「そんなことか。手をまわしてここまで体に負担を掛けないように連れてくるよう手配しよう」 神倉さんはボディガードに目配せをして言う。 「手配したまえよ。サングラス君」 ボディガードのサングラスを掛けたほうが深々と頭を下げる。 「待ってください。妹がこんなところに出入りしたと分かれば……」 「うーん。確かにこの施設はあまり世間的に評判がいいとは言えないからねぇ。ならどうするか?」 顎に指を当てて考え込む神倉さんに私は意を決して言う。 「私に感染させてくれませんか? 私に感染してもらって、私が妹に感染させる」 ボディガードが私を一瞥して何かを言おうとするのを神倉さんが手で制する。神倉さんの表情が蔑むように私を見下す。無表情に私を見つめる先ほど感じた寒気が私を襲う。 無言の数秒。いや、数秒だったと思うが、実際に体感していた時間は1時間にも感じた。 私を見つめていた神倉さんが突然両手を叩いて言った。 「その心意気や良し! いいだろう。私が君に感染させる。そして、君が妹さんに感染させるといい」 「響音さん」 ボディガードが神倉さんに詰め寄るが、神倉さんがひと睨みで黙らせる。 「なら、善は急げだ。そこの穴から手を入れてくれたまえ」 指を刺された先にはちょうど片腕が入るほどの長方形の穴が開いていた。 「本来は差し入れか何かを入れる穴なんだけどね、触るだけなら問題はあるまい」 私は言われた通りに長方形の穴にそっと手を差し入れる。これで。私の目的が。 ゆっくりと神倉さんの手が私の手に近づいてくる。あと数センチで重なるというところで止まる。 「君の言葉に嘘はないね?」 「あるはずがないじゃないですか」 「そうか。ならいいんだ」 にっこりと笑って神倉さんが私の右手に手を重ねた。
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