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お母さん、聞いてほしい話があるの。
そう一人娘に言われたのはちょうど二週間前。
それに対して、私の返事は
その話、今じゃなきゃダメなの?
疲れていた。
それは言い訳だと分かっている。
私はあの時、パートから帰ってきて家事を済ませた後でクタクタだった。
だけど私に何か話すとしたらあのタイミングしかなかった事も少し考えれば分かること。
それなのに私は、あの子のSOSを最後まで受け取ることはなかった。
あの子が学校で虐められていたと分かったのは警察が家に来たとき。
あの子の机から日記帳が見つかり、そこに遺書が書かれていたのだ。
虐めの内容も記されていた。
目の前で悪口を言われるのはいつものことで。
万引きを強要されたこと。
ノートや教科書を捨てられたこと。
男子に悪戯されたこと。
売りをさせられたこと。
他にもたくさん、たくさん書かれていた。
虐めた生徒と、無視し続けた教師の名前も一緒に。
遺体は見せてもらえなかった。
学校の屋上から飛び降りたあの子の体は、無惨なものだったらしい。
結局、私は最後まであの子にちゃんと謝る事ができなかった。
その後しばらくして分かったのは、虐めが始まったのが半年前からだということだった。
半年前から、あの子は一人で耐えていたのだ。
お母さん、聞いてほしい話があるの。
あれは、あの子の精一杯の叫びだったのではないか。
いや、そうに違いない。
私は、何をしていた?
あの子が苦しんでいる半年間、なにを?
忙しくて疲れてるからと言って、まともに顔も見てなかった。
最後に話をしたのは、そうだ。あの人を紹介した時だ。
同じパート先で働いていた彼。
私は、ちょうど、半年前から彼と付き合い始めたのだ。
その日は彼をあの子に紹介しようと決めていた。
あの子の新しいお父さんになるかもしれない。
だから、受け入れてほしい。
そんな一心で。
だけど彼を紹介した時、あの子の表情はみるみる曇って、はっきりと彼を拒絶したのだ。
私は認めない。
そう言葉でも拒絶した。
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