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今目の前に、あの子が、娘がいる。
私を、多分見つめている。
あの子は全身血塗れだった。
手足はおかしな方向に曲がり、顔は潰れてしまっっている。
潰れて歪んだ顔面から、ポタリポタリと血が滴っている。
肉塊の隙間から見える白いものは歯だろうか。
あれが歯なら、そこからダラリと垂れ下がるものは舌だろう。
右目は窪んで、左目からは白く濁った眼球が歪んで飛び出している。
それでも自分の娘だとわかるのは腕時計をはめていたから。
私が、高校の入学祝いに買ってあげた時計。
それをあの子はとても気に入ってずっと身に着けていてくれたのだ。
今も変わらず。
娘に足元に転がる首がひしゃげた死体は、恐らく彼だろう。
その顔は恐怖に歪み、普段の彼からみたら別人のようだった。
娘は、フラフラとした足取りで私にゆっくり近づいてくる。
逃げられない。
そう直感で分かった。
いや、逃げることはきっと許されないのだ。
私はガクリとへたり込む。
娘から目を離せないまま。
ごめんなさい。
そう呟いた。
娘は私のすぐ目のまえで止まる。
ゆっくり、ゆっくり私に手を伸ばす。
ごめんなさい。
今度は先ほどよりも大きな声で言った。
娘の動きが、止まる。
「 」
娘は掠れた声でそう言うと、私の首に手をかけた。
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