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「おい、桜川。今、何時だと思ってるんだ。もう就業時間は終わりなんだよ。俺ら開発部は残業すると部長が煩いんだよ」
熊谷の抗議に紬希は申し訳なさそうに顔を紅潮させた。
「あ、すみません。私、気が利かなくて…」
「お、おい、熊谷…」
焦る僕に熊谷は目配せして、ニヤリと笑った。
「ま、そうは言っても、その様子だと急ぎみたいだな。俺ら開発部はサービス残業も慣れてるんだよ。夜の会議なんかは外で飯を食いながらやってるんだ。な、佐藤?」
「あ、ああ…」
急に話を振られて戸惑いながら頷く。確かに深夜に食べながらの会議はよくある。しかし、こんな時間なら少しくらい残業しても部長は怒りはしないし、サービス残業でもたいしたことはない。
「俺はもう帰る。お前らは、二人でタイムカード押してから、飯食いながら会議すればいい。支払いは佐藤が持つから安心しろ」
そう言うことか。熊谷は僕に気を利かしてくれたのだ。食事に誘うなんてできない僕に代わって紬希に持ちかけたのだ。
「判りました。何かすみません…」
紬希はぺこりと頭を下げる。
「いや、こちらこそ」
僕も頭を下げる。
その様子に熊谷が苦笑いする。
「何だか、お前ら似てるな。気が合いそうだ」
「え?」「え?」
同時に声を上げて、お互いの顔を見合う。
どちらからともなく笑みがこぼれた。
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