3人が本棚に入れています
本棚に追加
第1話:佐の回
日差しがだいぶ厳しくなった。
毎日のように降り続いていた雨も止んで
この頃はずっと透き通るような青空が広がっている。
コンビニ袋をぶら下げて
いつも通る道とはまた違う、遠回りな道を選んでみた。
自炊をしていたが、軽く食べたい時は近所のコンビニに行っていた。
だが最近は自炊も面倒になって、コンビニと自宅を往復する日が多くなった。
そうなると毎日のように同じ道を通る。
いい加減同じ道は飽きるから、たまにこうやって違う道を通るのだ。
それが遠回りでも構わない。ただ散歩を楽しみたかった。
先に鳥居が見えた。神社があるんだ。
鳥居の先に続く道は、木が覆い茂っていて、昼間なのにどこか薄暗い。
だが鳥居をくぐった道の奥、境内は
薄暗い道とは打って変わって日が差し、神聖なものに見えていた。
人がいる。
自分と同じ、コンビニ袋をぶら下げて
日に当たって長い黒髪が光っていた。綺麗な髪ではあったが、その後姿からして男だとすぐにわかった。
一人で何をしているのか。
神社にお参りに来たというようにはあまり見えなかった。
コンビニで買ったアイスを袋から取り出して口に加えながら
なんとなく様子を見ている。
不意に男が立ち止まって、斜め上を見上げた。
その後、コンビニ袋から何かを取り出し、それを掲げて何か喋っているようだった。
その後また掲げたそれを袋に戻し、境内の奥へ消えていく。
はたから見れば、何もないところで独り言を言っているおかしな奴。
で終わるだろう。
でも俺はそうじゃないとわかっていた。
だから、後を追った。
垂れてくるアイスを舌で受け止めながら、境内に向かう。
男の姿はなかった。
この神社の出入り口は先ほどくぐった鳥居のところ以外にはない。
まだこの神社からは出ていないはずだった。
表にいないなら。
境内の横に回った時点で、綺麗だったそれまでとは違い、地面は雑草が好き勝手生えて足場が悪くなっていた。
目の前を飛ぶ小さな虫を追い払いながら、境内の後ろに回る。
最初のコメントを投稿しよう!