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「『カホ』…そうかね。カホは飛びたいのかね」
「飛びたいです」
「なぜ?」
「わからない。ただ、ずっとずっと、飛びたい気持ちが抑えられないから」
「そうかね。……苦しい人生だね、カホ」
トキさんは、ひとつ溜め息をついた。
「生ある者には皆、天分がある。
秀でた天分を持っていながら、他の天分を望んでやまない者が、時々生まれる。
それもまた自然の理なんだろうかね」
「僕は飛べないんですか」
「あたしがいかに物知りでも、こればっかりは無理というもんだね」
「本当にダメなの?
トキさんは鳥の長老でしょ、何か方法はないの?
カホは、本当に本当に頑張ってるんだよ!」
「ルカに……ルカに一目だけでも見せたい。それもダメですか」
「ほう、『ルカ』。カホと一緒に来たトナカイかね」
「ルカはずっと、自分の夢を犠牲にして、僕の夢を守ってくれた。
絶対に飛ぶ姿を見せたいんです」
「……自分の天分を発揮できないのは、別の天分を追い求めること以上につらいもんだがね。
ルカは優しい子だね」
トキさんは最後まで、飛ぶ方法を教えてはくれなかった。
「……ひとつ、覚えておくかね」
あきらめて帰ろうとしたあたい達に、トキさんは言った。
「天分は、ここぞという時には一番役に立つ。
要らないと思っていても、それが天分ってもんだね。
少ぉしだけでいい、自分の天分を愛してごらんね。
少ぉし、光が見えるかもしれないね。
ルカは、『流駈』。
カホは、『歌宝』。
カズは、『和須』。
それがお前達の天分だ。
そしてこの里は、キリの…『希里』の領分だからね」
「キリさんの?」
「そう。希望の里だね」
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