その日、その時

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 「ごめん」は――  残酷な言葉だ  わかってる  もう   どうしようもないんだって  君が悪いんじゃない  それは厭というほどわかってるんだ  でも……  ああ……  「ごめん」って言葉は  残酷だ  つまりそれは  君がこれから向かう先には  俺という存在が  どうあっても隣にはいられない事を示唆していて  ひどく堪えるよ  募る想いが抑えきれなくて  その関係を壊してしまった  君はすごく驚いたように瞳を開いて  そして少しはにかんで  けれども困った風に視線を落とし  「ごめん」  と  そう言った  わかってる  突然に言い出した俺が悪かった  きっと君は  ただ俺に対して  「ごめん」のほかに言葉がなくて――  それ以外の別の感情が持てなくて――  それで余計  心苦しい気持ちで俯いていた  その優しさが  嬉しくもあったけど  その様子が  何より俺への返答だったわけだ  けれども君は  それ以降も変わらずにいてくれた  あんな事を言い出した俺とも  距離を置かないでいてくれた  「それでも貴方は   わたしにとって大切なひとだから」  そうにべもなく言って除けてさ  それってわりと追い討ちをかけるセリフだろうに  でも    実際のところ  そう本心を偽らないでくれる君の  いつだって真正面から向き合ってくれる君の  そんな威勢の良さとかにさ  余計やられてしまったんだ  だから   諦めきれなくなった  どこか揶揄ってる節のある   君のその微笑を見て  諦めてやるもんかって思ったよ  それからも  俺は君の口から    何度か「ごめん」を言わせてやった  周りまでも巻き込んで  なにか   だんだんと恒例行事みたくなってたっけ    性懲りもないこんな俺に  君もよく付き合ってくれたもんだ  いやでも  君だって半分は楽しんでたろ?  それくらいは知ってるよ    そんな君を前に  本気でその笑顔を――  君の幸せを想ったよ  ああ……  そうだとしても……  今度の「ごめん」は  さすがの俺でも挫けそうだ
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