その日、その時

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 だってそうだろう?  今度の「ごめん」は  さすがに次元が違うじゃないか    それにしたって  事ここに至って  よく言えたもんだ  何度も俺  話しただろ    君の言う「ごめん」が  どれだけこの心を細切れにしたかを  懇切丁寧に  レポートにまでできる分量でさ  そりゃあ  一向に諦めなかった俺も俺だ  けど  その事を笑い話みたく茶化して言う  君には呆れ返ったよ  俺以外にだって  自慢げに話すんだからなあ    まあ  そりゃ確かに   多少は誇らしくもあった  なんたって  勲章みたいものだから  まるでへこたれなかった  こんなバカな俺の  それでも名誉の傷痕ってやつさ  でも君  それをあの子らの前で話すのだけはやめてくれよ  これでも  俺なりに威厳を保ってるつもりなんだから  ああ……  本当にまったく……  君は相変わらずだ    そんな姿になっても  いつもと変わらず  直截な顔でいて  まるで威勢が損なわれてないんだから   病室のベッドの上  いくらも痩せこけたように見えないのに  体重が2割も減っただなんて  天気の話をするかのよう  そう切り出してから―― 「ごめん、あなた……  あとのこと……この子たちの事をどうかお願いね……」    ――君はその最後の「ごめん」を俺によこした  ああ……  頼むよもう……  そんな朗らかな顔で  そんな全てを受け止め切った顔で  ――そんな「ごめん」を言わないでくれ    子どもたちだって    これまで必死に耐えていたのに  泣き出してしまったじゃないか  わかってるだろ  体は大きくなったって  この子たちには  まだまだ君が必要なんだぞ     俺ひとりで  やっていけるわけなんかないだろう?  心底……  そう思うよ……  「ごめん」という言葉は  この世で最も残酷な言葉だ  なあ  そんな最も残酷な言葉を残していく君には  今から俺がする  この質問に答える義務があるはずだ  だからどうか  いつもみたいに真っすぐ俺を見て答えてほしい    俺はちゃんと  君を幸せにしてやれたかい?
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